「失敗談」外山滋比古著 失敗から学んだことで得られる人生の本質

一時期「知的〇〇」の本を読むのがマイブームだったときがあります。

たとえば、「知的生産の技術」梅棹忠夫著、「知的生活の方法」渡部昇一著、「知的創造のヒント」外山滋比古著など・・

その中でも自分に一番しっくりきたのは「知的創造のヒント (ちくま学芸文庫)」。それ以来、わたしにとっては単なる著者ではなく「外山先生」となっています。

そんな心の師である外山先生の新著ということで失敗談を手にとってみました。

読んでみると短編集になっていて読みやすく、しかも深い内容がつまっています。その中で特に気に入っている言葉、「セレンディピティ」について書いている文章があります。なんだか意味深な言葉ですよね。

先生の本には、以下のように書いています。

セレンディピティは思いがけない発明、発見のことであるが、その本質は、目ざすものをとらえることには失敗して、思いがけないものを見つけるのに成功するというところにある。P50

今、全国の美術館で浮世絵展が盛んですね。背景には、浮世絵師 葛飾北斎が亡くなってから2019年でちょうど170年目になっていることがあります。

2020年は北斎生誕260年目で、パスポートには北斎の富嶽三十六景の作品が使われますし、ちょっとした浮世絵ブームなりそうです。

富嶽三十六景と言えば、190年経っても鮮やかな北斎ブルーが有名です。

このブルー(プルシアンブルー、ベロ藍)は、もともとは1704年にドイツで赤い顔料を作ろうとしていたら偶然発見された顔料だったというのは有名な話。

このブルーが発見されて、その後日本に渡り、そして北斎と出会った。この偶然が重なって北斎の最高傑作ができあがっていったことを考えるとこれもまさにセレンディピティです。

人生は幸運をつかみとる力だけでなく、幸運を呼び寄せる力や幸運に気づく力も大事

結局、ふだんから幸運を呼び込む努力をして、訪れた幸運に気づくように精神をとぎすませておかなければならないということですね。

そう言えば、それぞれの分野で活躍された偉い人たちの自伝をまとめた日経の「私の履歴書」も、読んでいくうちに翌日の新聞が待ち遠しくなることも度々ありました。

これに対して、外山先生の本は失敗談ばかりをまとめているのに、それぞれの失敗から得られる教訓やこの先失敗しないための知恵のようなものが、先生ならではのやわらかで軽妙な筆致によってじわじわと出てくる感じがとても心地よく感じられます。

これも先生のお人柄なんだろうと思います。

実は、わたしが持っている「失敗談」には先生のサインがあります。

この本が出版された時に、先生の講演とサイン会があったので仕事帰りに立ち寄りました。このとき、学生の頃に愛読していた「知的創造のヒント (ちくま学芸文庫)」もカバンに入れて。

先生の講演の後、待ちに待ったサイン会。自分の番が来た時に、「失敗談」だけでなく「知的創造のヒント (ちくま学芸文庫) 」もサッと出したら、先生は「知的創造のヒント (ちくま学芸文庫)」の方からサインをしてくれようとしたのです。が、まさにそのときに・・

横から「ほかの出版社の本へのサインはご遠慮ください!」という出版社の人の声があって、あえなくわたしのひそかな試みは「失敗」。笑

でも、このとき先生と近い距離でお会いできたこと、そしてわたしの気持ちを察して静かにサインしようとしてくれた人間味にあふれる先生のお人柄に触れることができたのは最高の幸せでしたね・・・

先生の直筆のサインがある「失敗談」は、わたしの大切な宝物。
この本に含まれている21篇の中のたった1つだけの話でも、いろいろと思考をめぐらすことができます。

2020年8月6日、外山先生が96歳でお亡くなりになりました。90歳を超えてからもご活躍されていた姿を拝見して、著書がすばらしいだけでなく生き方も私が憧れる方でした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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