相場(マーケット)には、ある事象や景気指標に対して参加者ごとの「買い」や「売り」の思惑が働いて全体として価格が形成されていることから、まさに心理学(行動心理学)の考え方が反映されていると言えます。
一方、日本には古来より多くのことわざがありますが、それぞれに人の心理や行動パターンの本質(心理学の真髄)が簡潔に表現されています。
中でも、「数字のことわざ」には相場心理に通じるものが多いことから、マーケット参加者の相場心理を凝縮して表現した「チャート」を分析する際にも活かすことができます。
そこで今回は、相場心理を読み解く際に参考となる「数字のことわざ」をまとめました。
上り一日下り一時(のぼりいちにちくだりいっとき)
坂道を上るには一日かかっても、同じ道を下るにはわずかな時間しかかからないことから、物事や信頼関係を作り上げるには長い時間と労力を要するが、壊すのはあっという間だというたとえで使われます。
このことは、もちろん相場にも当てはまります。
実際、次々に出てくる売り物をこなしながら何日も何か月もかけてやっと高値をつけにいっても、今回のコロナショック のような想定外のイベントが発生すると買いが一気に引っ込んで短期間で急落してしまうことになります。
相場の上げ下げに関しては、「山高ければ谷深し」という格言もあります。
上げ幅が大きいほど何かあったときの下げ幅も大きいということで、バブル(相場の過熱状態)の発生 → 崩壊の過程でよく使われます。
話はそれますが、1996年12月当時FRB議長だったアラン・グリーンスパン氏が米国株について「根拠なき熱狂(irrational exuberance)」という表現を初めて使って警鐘を鳴らしたことがあります。
今回のコロナショックに対して、FRBは「金融危機は起こさない」という信念のもとで大規模な金融緩和を行いました。
一方で、中央銀行として「バブルを起こさない」ために今回の「コロナバブル」の状況も注視しながら、ある段階ではパウエルFRB議長は何らかのメッセージを発するのではないかと予想しています。
二度あることは三度ある
本来の意味は、同じようなことが二度続くと三度目も起こる可能性が高いということですが、チャート分析の観点からは「トリプルトップ」や「トリプルボトム」を連想させます。
つまり、ダブルトップを形成した後に、再度上値をトライしたとしても結局抜けきれずに下落に転じてしまう動きに当てはまります。(ダブルボトムはこの逆の動き)
また、このことわざは特にネガティブなことが起きたときに使われることが多いことから、今回のコロナの第二波に続いて第三波の可能性が取り沙汰されるときにも当てはまります。
三度目の正直
上のことわざと少し違う点は、たとえ一度目、二度目は失敗しても三度目はうまく行くというポジティブな意味合いを含んでいることです。
チャートの形状としては、トリプルトップを形成せずにさらに上昇したり、トリプルボトムを形成せずにさらに下落するパターンに当てはまります。
七転び八起き
文字通り、七回転んでも八回起き上がるという意味で、何度失敗してもくじけずに立ち直ることを意味します。
チャート分析では「連騰・続落」、「連続陽線・連続陰線」の局面に当てはまり、およそ7日連騰すれば買い疲れ感、7日続落すれば売り飽き気分が出て反転することが多いことを意味します。
人の噂も七十五日
世間の噂(うわさ)は一時のもので、75日(2か月くらい)も過ぎれば自然と忘れ去られてしまうことを意味します。
チャート分析では、中長期の移動平均線として75日を使うことが多いですが、相場に影響を及ぼす短期的な材料(マーケットの噂も含む)をすべて株価に織り込んで中立化した形で中長期のトレンドを見るには適した日数となります。
明日の百より今日の五十
たとえ明日になれば今日の倍のものが手に入るかもしれないが、少なくてもよいから今確実に受けとれるものを手に入れる方がよいというたとえです。
これは相場の世界にも当てはまる真実ですが、一方で、株式投資の極意として「損切りは早く、利食いは遅く」という言葉があります。
投資の初心者は、含み損が出ても忍耐強く持ち続けて、結局損切りが遅くなって損失が拡大してしまう、一方で利食えるレベルになるとすぐに売ってしまうことが多い傾向があります。
本当のプロの投資家の域に達するためには、「損切りは早く、利食いは遅く」の言葉を実践できるようにしたいものです。
数字のことわざ以上に相場そのものに関係する「相場格言」については、日本証券業協会ホームページの「相場格言集」が参考になります。
「利食い千人力」や「見切り千両、損切り万両」といった相場格言はみなさんもきっと耳にしたことがあると思います。
さいごに
数字のことわざや相場格言と異なりますが、最後に「靴磨きの少年の話」に触れたいと思います。
世界恐慌の発端となった1929年10月の米国株の大暴落に関連して、「靴磨きの少年まで株の話をしているのを聞いて、持ち株をすべて売り払って損を逃れた」という逸話が有名です。
今回のコロナショックで相場が下げた時に個人投資家の裾野が広がったのはいいことですが、投資をしていない人まで普通の会話として株の話をし始めたら、天井が近いというシグナルかもしれません。
やはり相場は「売り買いは腹八分」に限りますね。