今回のコロナショックで3月下旬にかけて大きく下落したアメリカの株式市場は、わずか2か月半で下げ始めた直後の水準まで戻しました。
相場が急落する過程で、2008年のリーマンショックを経験した人の多くは二番底を警戒し、景気見通しを重視する人たちは1929年の世界恐慌に匹敵するような最悪シナリオを予想していました。
一方で、IT関連やコロナワクチン関連の株でうまく相場の波に乗れた人でも、ここまでの早い回復を予想していた人は少数派だったはずです。
ところで、相場に影響を及ぼす要因として以下の4つがあります。
- 景気見通し
- チャート分析
- 需給(売り買い)
- 天体サイクル
それぞれの要因が複合的に絡み合いながら、ある時は景気見通しが相場に大きな影響を及ぼし、またある時はチャート分析が相場を動かす要因だったりします。
4つ目の天体サイクルについては、以下の記事を参考にしてください。
そして、5月の戻り相場は、以下に示す需給の要因が大きく働いていたことがはっきりしました。
海外勢が5月に過去最高の買い越し
景気が悪化する中での株価の戻りの一因として、コロナの影響で外出を自粛したアメリカの若い世代が、給付金(1人あたり1200ドル)を元手に売買手数料無料のネット証券「ロビンフッド」を通じて大きく下がった株式をリスクもいとわずに活発に売買したことが挙げられています。
ロビンフッドは、2019年末に口座数が1000万件に到達した後も、今年の1~3月だけで300万件も新規口座が開設されたようですが、チャールズ・シュワブといった他の大手ネット証券も相場急落をはさんで同じように口座開設数が増えています。
さて、米国財務省が7月17日に発表した5月の対米証券投資(TICデータ)によると、海外投資家による米国株の買い越し額が過去最高の797億ドル(約8兆円、内訳:民間部門 753億ドル、公的部門 44億ドル)に達しました。
(出所)米国財務省 https://ticdata.treasury.gov/Publish/stksect.txt
上のグラフで、公的部門とは各国の公的年金や政府系運用機関を意味します。
ポジション調整の買いか相場感に基づく買いか?
下の表にまとめましたが、国別に見てみるとさらに興味深いことがわかります。
日本は、2番手のカナダに迫る96億ドル(約1兆円)も買い越していました。
他の国よりも大幅に買い越したイギリスは、2019年を通して172億ドルの売り越しでした。2020年になってからも1月から4月まで売り越し基調(特に4月は317億ドルの売り越し)だったことから、5月の買い越しは強気に転じたというより売り越してきたポジションを調整するために一部買い戻したのに過ぎないと推測できます。
また、ケイマン諸島(裏はケイマン籍のヘッジファンドなど)については、3月の急落時に160億ドルの買い越しとなった後も、4月131億ドル、5月85億ドルと買い越し基調が続いています。
一見すると、相場感に基づく買いのように見えますが、実は2019年中は359億ドルの大幅売り越しとなっていたことから、イギリス同様、ポジション調整の買い戻しであったと推測できます。
一方、ほぼ右肩上がりで推移した2019年中に米国株を買い越して、3月の急落相場以降も買い越している香港やスイス、4月に大きく買い越したサウジアラビアは、米国株に対する強気の相場感に基づく買いであると推測できます。
国 | 2019 | 2020/1 | 2020/2 | 2020/3 | 2020/4 | 2020/5 |
---|---|---|---|---|---|---|
イギリス | -172 | -12 | -27 | -83 | -317 | 289 |
カナダ | 177 | -125 | 40 | -130 | 3 | 98 |
日本 | 0 | -5 | -15 | 28 | 25 | 96 |
ケイマン諸島 | -359 | -54 | 11 | 160 | 131 | 85 |
シンガポール | 165 | 60 | 13 | -26 | -109 | 46 |
サウジアラビア | 25 | 1 | 1 | 34 | 101 | 44 |
フランス | -3 | 84 | 42 | -267 | 31 | 38 |
ドイツ | 82 | 21 | 1 | -28 | 23 | 38 |
ルクセンブルク | 28 | 0 | 12 | -17 | 8 | 31 |
ノルウェー | 46 | 8 | 12 | -4 | 4 | 22 |
香港 | 70 | 15 | 30 | 103 | 50 | 6 |
スイス | 44 | 14 | -5 | 159 | 32 | 5 |
買越し額上位6か国について2020年1月から買い越し・売り越しの金額をグラフ化すると以下のようになります。
上の内容を一言でまとめると、「売り越してきたポジションを調整するための買い」は、「強気の相場感に基づく買い」ではないため、買い一巡後に相場を押し上げる力がなくなることになります。
6月8日に戻り高値をつけてからもみ合い相場になったのは、まさにこのことを反映していると推測できます。
私の個人的な分析によると、以下のように分類できます。
- 売り越してきたポジションを調整するための買い:イギリス、ケイマン諸島
- 相場感に基づく買い:日本、サウジアラビア、香港、スイス
- 3月または4月に大きく売越した分の一部調整の買い:カナダ、シンガポール、フランス
結局、5月の買越額が見かけ上は過去最高だったとしても、その中身をしっかりと分析する必要があります。
日本の個人投資家の動き
日本の個人投資家もアメリカの若い世代同様に、3月の急落時にネット証券の新規口座を開設する動きが目立ちました。これは、リーマンショックで株式市場が下落した2008年10月に新規口座の開設数が増加したのと同じ現象です。
新規口座を開設した個人投資家が、どの国の株式を買うかという点については、もちろん日本株が身近であることから1番の選択肢になるとしても、最近の傾向としては米国株に投資する動きが高まっているようです。(現に私も最近は米国株しか興味がありません。)
例えば、楽天証券が7月末に開示した決算資料によると、2020年6月に米国株の約定件数が前年同月比で17倍、収益が7倍になっています。(出所:楽天証券 2020年12月期上半期決算説明資料(39~40ページ)より)
コロナに対する矢継ぎ早の金融政策やトップのリーダーシップ、世界をリードするIT業界、ワクチン開発への期待だけでなく、日本株より配当利回りの高い株式が1株から取引できるのが魅力です。
少し古い数字になりますが、外国株式の売買金額は2017~2018年で20兆円レベルとなっており、過去から見ると増加傾向となっています。
1つだけ付け加えると、5月の約1兆円の買越しポジションのコストが比較的高いことから、今後の相場次第では波乱の一因になる可能性があります。
さいごに
今後の米国株式市場の波乱要因として、
- 動意づいてきたドル円
- 11月のアメリカ大統領選挙の行方
- 米中関係の緊張感が高まっていること
- アメリカでコロナの新規感染者数が増加中であること
などが挙げられます。
特に4点目については、西洋占星術の世界で感染症の大流行(パンデミック)と関連性があると言われている「木星と冥王星の合(コンジャンクション)」が、4月4日、6月30日に続いて11月12日にもあります。
以下のアメリカ疾病対策予防センター(CDC)による新規感染者数のグラフで見ても、まだまだ安心できないことがよくわかります。
以下の記事もあわせて参考にしてください。
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この記事は、個人的な見解に基づく情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスとして書いたものではありません。