『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』山口周著

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「世界のエリート」という庶民から見たら縁遠い存在、「美意識」という何となく崇高で哲学的な言葉、「なぜ鍛えるのか?」・・・本書のタイトルに惹かれて購入してみました。

そして副題が ”経営における「アート」と「サイエンス」” となっているように、著者の経歴を活かした内容となっています。

今、特別展をしている美術館に行くと大変混雑しています。しかも、若い世代からお年寄りまで。

ところが、働き盛りの40代以上の男性や経営者と思しき人たちが、なんとなく少ないように感じるのです。毎日の仕事で疲れて週末は家でゆっくりしてるのか、それともアウトドア派であればスポーツなのか・・。

世界のエリートたちが美意識を鍛えているのに、日本の働き盛りの世代や経営者は美意識を鍛えるという意識すらないのではと思ってしまいます。これでは、日本の企業が世界を舞台に戦っていけないのではという危惧をいだいてしまいますね。

「実際に自ら芸術的な趣味を実践しているという人ほど、知的パフォーマンスが高いという統計結果もある」 P70

最近驚いたことは、ラグビーW杯に合わせて来日したラグビー選手が美術館で絵の鑑賞をしていたのを見たことです。世界ではエリートに限らず、アートあるいは美意識が豊かな人間性や精神を涵養するという考え方が教養として広く普及しているのだと思います。

日本ではどうでしょうか?

教育におけるアート(芸術)分野というとなんとなく隅に追いやられているような・・。社会に出てからも、何か特別な趣味のように思われたり、皮肉をまじえて「高尚な趣味ですね」と言われたりして、なかなか表立って会話をする機会はありません。

アートに関してもっと気軽に雑談できればと思うのですが。

この本は、世界のエリートを持ち出すことで、「日本はどうなんだ」というメッセージを伝えたかったのだと思います。実力主義に名を借りた収益至上主義、そして株や仮想通貨で儲けた、損したなど・・・今の日本は病的なまでに数字だけを追い求めています。

会社の経営方針を読んでも、どの会社も似たような表現でちっともおもしろくありません。ビジョンとは「夢」のある言葉・・・つまりアートセンスがないと生まれてこない概念です。

著者は以下のようにも書いています。

「どんなに戦略的に合理的なものであっても、それを耳にした人をワクワクさせ、自分もぜひ参加したいと思わせるような「真・善・美」がなければ、それはビジョンとは言えません」 P92,93

まったくそのとおりだと思います。

株を買うなら、ビジョンをしっかりと打ち出している企業に着目したいですね。

そう言えば、夏休みは小学生や中学生が好きな美術館で好きな絵を鑑賞して感想を書くという課題に取り組んでいました。

ちなみに、この夏休み中、わたしの親戚の家にホームステイに来ていた米国人の高校生T君。高校では日本語を学んでいて将来はエンジニアを目指している若者です。そんな彼がわたしと一緒に美術館に行き、熱心に絵を鑑賞していた姿が今でも印象に残っています。

いずれ大人になり、アートを楽しみながら創造性(Creativity)を育て「新しいもの」を創り出し、そしてその感性を将来の仕事に生かしてもらえたらと思った次第です。

これからの時代、新しい何かを創り出す力が求められている。そんな場所を提供してくれている美術館や博物館。ぜひ時間があるときに訪れてみてはいかがでしょうか。旅に出る時間がない人こそ、気軽に訪れて瞑想にひたってみてください。そこには「なにか新しい発見」がきっとあるでしょう。

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)

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